Bad Day A




 ハマノは自分の隠れ家へ男を連れて来ていた。
 本社のある雑居ビルからそれほど離れていないのだが、ここは文字通りハマノ以外誰も知らない隠れ家で、大切な情報や書類はここへすべて集めてあった。
 電脳錠のおかげで動きの鈍い男を引きずるように部屋へ入れたハマノは、縛っていた縄をほどくと、室内にある大きなベッドへ男を放り出した。だが倒れこんだ男は声ひとつ上げない。
「随分根性が座ってるじゃねぇか。ええ?」
 ここへ来るまで、ひと言も喋っていない男は、ベッドに体を預けたまま、相変わらず片目には不機嫌さが浮かんでいるだけで、恐怖の色はない。
 ハマノはベッドサイドに置かれた大きなボックスの前に立つと、そこからコードを伸ばし、男の首の後ろに回した。
「ま、喋らなくても、コイツが全部探り出してくれるがな」
 にやりと笑いながら男の電脳錠を抜く。
 電脳錠が抜かれた瞬間、弾かれたように飛び起きた男が素早くハマノの首へ掴みかかったが、ハマノは難なくそれを抑えつけて、すぐにコードを首へ挿し込んだ。ふたたび身体の自由を奪われた男は、ハマノに掴みかかっていた腕をぐったりと下ろす。
「ナメてんのか?」
 ハマノは鼻で笑うと、男の両手を頭上で纏めて、今度はベッドのパイプに縛りつけた。
 男は悔しそうに睨みあげてきたが、ハマノは鼻で笑って、
「折角だから楽しんだらどうだ」
と言いながら自分のポケットを探り、小さい箱を取り出した。
「特注のクスリが丁度届いたところでな。試してみたいと思ってたんだ」
 中からアンプルと注射器を出し、振って見せる。中身を察したのか男の顔色が変わったが、ハマノは構わずその腕に注射針を突き立てた。そこで初めて恐怖の色を見せた男が身を捩ってぎこちない抵抗をしたが、ハマノは意に介さずアンプルの中身はたちまち空になった。
「さて、どうなるかな」
 にやにやしながら男の腕を放したハマノは、ベッドサイドのボックスに向き直る。これはハマノの大切な外部記憶装置であり、どんな防壁も突破する自作のプログラムを組み込んだハッキング装置でもあった。
 自分の首からコードを伸ばし、装置へ繋いだハマノは、早速、囚われの男の電脳へ侵入していった。
 男の電脳はスタンドアローン状態で保たれている。防壁が攻撃を仕掛けてきたが、ハマノのプログラムは攻撃をいなしながら少しずつ防壁を解体していく。
「……確かに、やっかいな防壁を持ってるみたいだな」
 視界の隅に立ち上がっている画面を見ながら呟き、ハマノは横たわった男の身体の上へ跨った。
 大柄な義体のハマノに腹の上へ跨られ、男がぎょっとしたように目を剥くが、先程よりいくらかぼんやりしている。
「クスリが効いてきたか? せっかくだから、同時進行でいこうぜ。なあ?」
 楽しそうに言いながら、ハマノは男のシャツに両手をかけ、一気に引き裂く。視界の隅では相変わらず防壁を突破しようとするプラグラムの進行状況が表示されている。
「もうちょっとで入れそうだな」
 あっという間に全裸にされた男は、楽しそうに呟きながら覆いかぶさってくるハマノから逃れようと顔をしかめて身を捩ったが、両腕を拘束され、腹の上に跨られた状態で、さらにはクスリで身体の自由が利かなくなってきたらしく、せいぜい威嚇的に唸るのが精いっぱいのようだった。
 ハマノが首筋をべろりと舐め上げると、男の唸りが止み、一瞬身体が強張った。
「な? 動けねぇが感覚が過敏になるんだよ。昔馴染みのデートレイプドラッグってやつだ。これは特注だがな」
 ハマノはにやにや笑いながら、傷だらけの肌をざらざらと撫でて男の反応を楽しむ。触られるたび、男の顔が歪み、身体が跳ね上がった。
「……なるほどな、やっぱり警察か。なあサイトー。やっと名前がわかったぜ」
 ようやく防壁を突破し、個人情報へ到達すると、ハマノは嬉しげに呟いた。組み敷かれた男がぎくりとした表情で見上げてくる。男の電脳では、アラームが鳴りっぱなしのはずだ。
「SWATから抜擢されての潜入捜査か。ご苦労さん。ほう、結構調べが進んでたんだな……危ない危ない」
 クスクス笑いながら、サイトーの身体を舐め回し、歯をたてて噛みついた。そのたびに、過敏になった皮膚感覚に逆らえずサイトーの口から声が漏れる。ハマノはさらに嬉しそうに笑い、自分の情報が抜かれていく恐怖と、ハマノの舌に肌が浸食されていく屈辱に耐えて血の出るほど唇を噛み締めているサイトーの肌を撫でた。
「へえ、お前、女と同棲してるのか。結構イイ女じゃねぇか」
 さらに深いところまで潜り込んだハマノが、拾い上げた個人情報を見てせせら笑う。それを聞くと、サイトーが今度は青くなった。
「ここに連れてきて参加させるか? 住所は……」
「クソッ……!」
 蒼白になった顔で、サイトーが初めて押し殺した声で吐き捨てるように言った。
「この、サディストの、クズ野郎!」
「なにぃ?」
 その途端、ハマノの形相が一変した。
「おれに生意気な口を利くんじゃねぇ!」
 右腕を振り上げると、サイトーの左頬を力任せに殴りつけ、返す手で右頬も殴る。
 義体の高出力で殴打され、サイトーの目がぐるりとひっくり返る。意識が飛びそうになったのだ。
「おれを、クズ野郎、なんて……言いやがって」
 ハマノは怒りの興奮に肩で息をつきながら、サイトーの首を片手で押さえつける。ベッドサイドのチェストにもう片方の手を伸ばし、乱暴に引き出しを開けて中から黒い電動シェーバーのような物を掴み出すと、サイトーの裸の脇腹に押し付けてスイッチを入れた。
 その瞬間、その装置からバチッと火花が飛び、
「ぅあああっっ!!」
 サイトーが背中を逸らせて絶叫した。ハマノは怒りに顔を歪ませたまま、サイトーの逸らせた背中がベッドにつかないうちに、もう一度スイッチを入れる。またサイトーの口から迸る絶叫。
 そうしてサイトーの感覚が過敏な身体に電流を繰り返し流したあと、ハマノはサイトーに顔を近づけ、低い声で唸るように言った。
「いいか、クズはてめぇの方だ。必要な情報さえ抜けば、お前はただのおれの玩具なんだよ。早死にしたくなけりゃ、二度と、今みたいな口を利くな」
 ハマノの凶暴な腕に締め上げられ、呼吸困難に陥ったサイトーの顔はみるみるうちに土気色になる。
 それを見てどうにか狂気を収めたハマノは、やっとサイトーの首を解放してもう一度ベッドサイドに手を伸ばし、今度はボトルを取り出した。サイトーが弱々しく咳き込んでいるのを横目で見て、満足そうに笑う。
 ボトルを逆さにして中身のとろりとした液体を右手に絞り出すと、先程までの楽しげな様子が再び戻ってきた。
「お前の残り少ない人生は、おれが楽しんでやるからな」
 ハマノは左手で自分のベルトを抜き、スラックスのジッパーを広げて既に硬く立ち上がりはじめているイチモツを出すと、液体をそこへ塗りつけながら扱く。そして、サイトーの両足を広げさせ持ち上げると、その尻へいきなり自分のモノを捻じ込んだ。
 潤滑剤を塗ったとはいえ、何の準備もないところへ大きなモノに強引に侵入されたのである。サイトーはあまりの苦痛にたまらず声を上げた。
 両手で膝裏を押さえ、膝がシーツにつくほど身体を曲げさせて、体重をかけてぐいぐいとサイトーに押し入っていきながら、
「もうすぐ……ゴーストラインだぜ」
と、視界の隅の表示を見たハマノが口の端を上げた。その言葉に、組み敷いたサイトーが戦慄するのがわかる。やがて自分の身体の一部がサイトーの内部で擦れる卑猥な音と共に、新たに流れた血の匂いが漂い始め、ハマノは嬉しそうに笑った。

 体内を暴力的に侵される苦痛と、容赦なくゴーストラインまで潜り込まれる絶望感。
 サイトーの激しい感情と感覚が、コードを伝ってハマノの電脳に流れ込んでくる。
「ああ……もう、お前のゴーストが……すぐそこに……」
 興奮に昂ったハマノが、切れ切れに呟きながらさらに乱暴にサイトーの体内を擦り上げた。
 ――その瞬間。
 今度はハマノが絶叫した。








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