雨音は甘い余韻の調べ 〜おまけ〜




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 ざあ、と勢い良くシャワーの温水を浴び、サイトーはほっと息をついた。

 置いてあったボディソープを手にとり、体に擦り付ける。
 洗いながら、胸に、腹に、腿にまで散っている赤い痕が目に入り、サイトーは小さく唸った。
 ……いつの間に、こんなところまで。
 数時間前の、パズとの嵐のようなひととき。
 パズと寝たことを後悔しているわけではない。
 だが……。
 サイトーは身体を洗う手を止め、泡だらけの右手で額を押さえて目を閉じた。




 キスまではまだ良かった。男同士とはいえ女相手とそう変わらないし、ひどく気持ちのいいパズのキスを、サイトーはひそかに気に入っていたからだ。
 だが、その先となると完全に未知の世界だ。
 サイトーとて元軍人だ。男同士の行為など珍しくもなかったし、何も知らないわけではないが。
 知識があるのと、実際に体験するのとでは話が違う。
 だから、これまでパズから何度となく求められていたが、はぐらかして、やんわりと拒否しつづけていた。
 なのに、今日は。

 今日は、きっと酔っていたのだ。
 押し倒され、服に手を掛けられても、押しとどめる気にはならなかった。
 ただ、少し不安になっただけだ。

 ……っ、おれ、あの時、何て言った?
 不意に自分の台詞が記憶に甦り、サイトーはシャワーの下で顔が火照り、耳まで熱くなるのがわかった。

 サイトーの言葉に、パズは、
『……ああ、わかってる』
と、少し上ずった声で答えた。
 パズも緊張しているんだろうか、とサイトーが思った途端、びり、と服を破るようにして脱がされた。
 緊張しているのではなく、余裕がなかっただけだ。
 たちまち素裸にされた全身をパズの手と唇が這い、その快感にサイトーはため息を何度も漏らした。
 だが、とろりとぬめる液体をかけられ、自分でも触れたことがないようなところへパズの指が潜り込んできたとき、頭の中が真っ白になり。
 ……その後の記憶は、途切れて曖昧だ。

 初めて身体を割り開かれた痛みと苦痛は忘れ様もないが。
 まて、とか、無理だ、とか切れ切れに思いはしたが、それを実際に口にしたかは判然としない。
 パズは迷いなくサイトーの中に押し入ってきたから、きっと言葉にはならなかったのだろう。

 何度か耳元で何かを囁かれたが、苦痛に耐えるのに必死でよくわからなくて。
 なだめるように唇にキスを落とされ、やっと全身が緊張で強張っていることに気付いて力を抜いた。
 
 やがて、驚くほどの快感が苦痛を掻き分けうねりとなってサイトーに押し寄せてきて。
 シーツの擦れる音と、自分の身体がたてているいやらしい音と、ふたりの荒い息づかいと、お互いを呼び合う声で世界がいっぱいになり。
 自分の汗と、ふたりの唾液の匂いへ、先に絶頂に達した自分の精の匂いが混じりあった。



 記憶が甦るにつれ身体の力が抜け、サイトーはいつの間にか浴室の壁にもたれてぼんやり考え込んでいた。
 
 同じ女と二度寝ない、パズ。
 おれとも一度寝たら飽きて、それっきりなんだろうか。
 今日は最初で最後だったんだろうか。

 ああ、おれは寝ること自体が怖かったんじゃない。寝ることでこの関係が終わることが怖かったんだ。




『おい、いつまでそこに篭ってるつもりだ?』
 パズの声に、サイトーは驚いて飛び上がった。
『どうせ自分の痴態を思い出して悶えてんだろ?』
 電通の向こうで、パズが笑っているのがわかる。
 サイトーは慌てて身体の泡を落としながら、
『馬鹿言え』
と不機嫌を装って電通を返した。図星だったが、そうだと言うわけにもいかない。
 パズがまた笑う気配がして、
『次はもっといいセーフハウスに連れてってやるよ。バスルームも広いから、一緒に入ろうぜ』
と、からかうような声が続けた。
(次……)
 無意識にほっと安堵している自分に、サイトーはまた顔が火照るのを感じて。
『馬鹿、次はねぇよ』
 思わず憎まれ口を叩いてしまった。

『そうか? ま、おれがその気にさせてやるけどな』
 パズの楽しそうな声が、耳に心地よかった。




この「おまけ」は、『Ochi』のOchiさんから「雨音は〜」の方へ寄せていただいた感想に基づき、わたしが大いに妄想を膨らませて書いちゃったものです。
初めて書いたそれらしいえちぃ話。いや〜パズサイってほんっとにいいですねぇ〜(水○晴郎風に)。 妄想ネタをどうもありがとうございました!
                                                  


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