たまにはこんな夜も
深夜。 熱気の籠もった薄暗い部屋で、パズは長いため息をついた。 両手をついた姿勢のパズの下には、達したばかりのサイトーの汗ばんだ身体がぐったりと横たわっている。 パズはそのまま腕を曲げ、肘をついてサイトーに顔を近づける。 まだ荒い息をついている汗ばんだサイトーの胸に体重をかけないようにそっと自分の胸を乗せるようにすると、固く閉じられたサイトーの右まぶたに口付ける。その後は額、頬、唇と、ゆっくりキスを落としていく。 『……こういうことを……』 「ん?」 まだ口をきく元気がないらしく電通で呟いたサイトーに、こちらは声に出して聞き返す。 「何だよ」 『……こういうことを、ヤッた後にすると女は喜ぶのか?』 思わず顔を離して見下ろすと、サイトーはまだ目を閉じている。事後の興奮がまだ醒めていなかったパズは、サイトーの皮肉めいた言葉に少し気を悪くした。 パズは舌打ちし、 「喜ぶかどうか、お前も女にやってみろ」 と言うと、体を起こしてさっさとベッドを下りた。 いつもなら感覚が昂ぶっているうちに肌をあわせたままゆったり触れ合うひとときを過ごすのが好きなパズなのだが、今夜は何となく興醒めしてしまい、そのまま振り向きもせずにバスルームに入った。 蛇口を乱暴に捻ると、ざあ、と熱い湯がパズの頭上から降り注ぐ。 ベッドに置き去りにしてきたサイトーは、後からバスルームに入ってくるわけでも電通で何か言ってくるわけでもない。おそらくまだだるい身体を横たえて、パズの気まぐれを笑っているのだろう。 面白くない気持ちを抱えたまま、パズは大雑把に身体を流し、バスタオル一枚の格好でバスルームを出た。 寝室を覗くと、サイトーはまだだらりと寝そべったままである。 「おれはもう着替えたら帰るぞ」 もう寝ているのかとも思い、目を閉じたままのサイトーの肩に手をかけると、いきなりその手を掴まれベッドに引きずり込まれた。 「おい?!」 声を上げて抗議をする間もなく、そのままぐるりと体勢を入れ替えられ、サイトーに上から圧し掛かられてたちまち先程とは逆の状態になる。 驚いているパズを上から見下ろしたサイトーは、ひどく機嫌の悪い顔をしていた。 「こういう体勢でお前にああいうことをされると」 と言いながら、身じろぎするパズを乱暴に押さえ込む。 「お前がいつも遊んでる女と同じような反応を期待されてるような気がして、気分が悪いんだよ」 サイトーにしては珍しく乱暴な行為に、パズは呆気にとられたまま、不機嫌なその顔を見上げた。 と、サイトーに両手首を押さえられ腰の上に跨られたこの状態に、不意にパズはあらぬ想像をしてしまい一瞬ぞくりと背筋が震え、その自分の反応に思わず動揺した。 すると、サイトーはそのパズのわずかな動揺を察したのか、急にニヤリと笑うと、パズの手首を握った手に力を籠めてゆっくり顔を近づけて囁いた。 「……たまには、交代してみるか?」 「サイ……」 「おれがいつも女を抱く時と同じように扱ってやろうか?」 熱を帯びた強い光を放つ右目に捕らえられ、パズは息を呑んだ。 すると、その隙にサイトーはパズの腕を乱暴に引くと、身体をひっくり返し、うつ伏せにさせる。とはいえ、本来なら重い義体のパズを本人の意思に反してひっくり返すことなどできないのだが、サイトーの強引な仕草にパズが思わずされるままにうつ伏せになってしまったのだ。 サイトーはパズの腰を引っ張り上げ、四つん這いの体勢にさせるとパズ自身を左手にぐっと握り込み、後ろから耳元に口を寄せ、 「お前が女なら、おれにどう抱かれたい?」 と、熱っぽく囁いた。 パズは戸惑いながらも体の芯に熱が戻ってくるのを感じ、目を固く閉じる。 「何だよ、抵抗しないのか?」 黙っているパズに苛立ったのか、サイトーは自分の右手の中指をパズの口の中に捻じ込んできて、その指で口の中を乱暴に掻き回した。これから何をされるかわかってるんだろうな、と言いたげだ。 パズはスナイパーのしなやかな指に口の中を侵略されながら、いつも繊細な手つきで銃を弄っているその指が自分の口の中を弄っているのだと思い、このあとこの繊細な指が同じように自分の体内へ潜り込むのだと思うと、また背筋が震えるのを感じた。 「……っ……」 パズは思わず熱いため息を漏らし、サイトーに握り込まれたパズ自身も熱くなるのを感じた。 ところが、そこでサイトーは動きをぴたりと止めたかと思うといきなりがばっと起き上がり、パズの身体を上向かせると、 「おい! 冗談だぞ!?」 と顔を真っ赤にして怒鳴った。 「なんだ、冗談だったのか?」 パズが当惑した顔で問い返すと、 「当たり前だろうが!」 と、サイトーは呆れたように言った。 「本気でおれに突っ込まれるつもりだったのか?」 「お前がそうしたいなら」 パズが素直にそう答えると、サイトーはまた不機嫌な顔になり、たちまちベッドを下りてバスルームへ行ってしまった。 そこでやっとパズは、サイトーが、単にパズの動揺をあおるためにああいう態度に出たのだということに気が付いた。 「なんだ、本気じゃなかったのか」 一人になった部屋でパズはもう一度呟くと、不意に笑いがこみ上げてきて、その後サイトーがバスルームから出てくるまで声を抑えてずっと笑い続けていた。 |
たまにはサパっぽく。
サイトーさん相手なら何でもアリのパズ兄さんです。流石だね!(何が?)
ちょっと期待した方、すいません(笑)。
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